テスラ(Tesla)とBYDを筆頭とする中国EVメーカーの自動運転技術開発は、EV市場全体の成長を加速させる鍵となっています。2025年9月現在、テスラは先進的なソフトウェア主導の自動運転(Full Self-Driving: FSD)でリードしていますが、BYDは低価格帯での大量生産と無料提供のADAS(先進運転支援システム)で販売シェアを拡大中です。
この競争は、技術革新、データ量、規制、地政学的要因が絡み合い、グローバル市場を再編しています。以下で現状と未来を詳述します。
自動運転EVの現状:技術・市場の競争状況
2025年上半期、BYDのEV販売はテスラを上回り、特に欧州でBYDがテスラを抜いてトップセラーとなりました(例: 7月の欧州登録台数でBYDが13,503台に対しテスラは減少)。
BYDの収益は前年比23.3%増の3713億元(約519億ドル)に達し、低価格EV(1万ドル前後)の強みを発揮しています。
一方、テスラはBEV(バッテリーEV)販売で依然としてプレミアムセグメントを支配し、自動運転技術の質で優位です。中国市場ではテスラの販売が10%減少し、BYDの地元優位が顕著ですが、自動運転テストではテスラが中国ブランドを上回る結果が出ています。
主な技術比較(テスラ vs BYD)
以下は、2025年現在の自動運転技術の概要をまとめたテーブルです。テスラはビジョンオンリー(カメラ中心)のAIアプローチでデータ駆動型進化を進め、BYDはLIDAR(レーザーセンサー)統合のハードウェア重視で手頃な価格を実現しています。
項目 | テスラ (FSD) | BYD (DiPilot / God’s Eye) |
技術レベル | Level 2-3(監督付き自動運転)v13で介入間隔が10倍改善欧州ベータロールアウト中。 | Level 2 + HNOA(※1)DiPilot 100を全モデルに無料提供(2025年2月開始) |
センサー構成 | カメラ8-12台のみ(ビジョンオンリー)低コスト・低消費電力。 | LIDAR(※2-複数台)+カメラ低価格モデルでもADAS(※3)対応(例: SealモデルでLIDARアップグレード) |
データ量 | 30億マイル以上の実走行データDojoチップでAI訓練加速。 | 500人以上のエンジニアと自社データセンターユーザー基盤で急速学習中だが、テスラに劣る |
安全性 | Autopilot使用時、670万マイルあたり1事故(米平均の26倍安全)中国テストで全シナリオクリア | 無料ADASで普及加速中だが、テスラより後れ。DeepSeek AI統合で改善中。 |
市場展開 | 中国ではFSD未提供(規制)Cybertruck/Model YでFSDオプション(1万ドル) | 10,000ドル級モデルもADAS搭載中国・欧州で販売急増。 |
課題 | 規制(無監督FSDの承認遅れ)中国市場シェア低下 | フルオートノミー(Level 4)への移行が遅れテスラのソフトウェア優位に追いつく必要 |
※1 HNOAとは
NOA(Navigate on Autopilot)とは、ADAS(先進運転支援システム)の一種で、目的地設定により自動運転する機能です。テスラのFSD(Full Self-Driving)に倣って開発し、HNOAとは、ハイウェイナビゲートとして、高速での自動運転が可能なことを示します。
※2 LiDARとは
「LiDAR」とはLight Detection And Rangingの略。レーザーの反射光によって対象物までの距離および形状等を計測する技術です。周波数帯30~300 GHzの非常に高い周波数のミリ波と呼ばれる電波であり、地形図作成や航空測量などに使われてきました。
※3 ADAS(先進運転支援システム)とは
「ADAS」とは、Advanced Driver-Assistance Systemsの略で「先進運転支援システム」と呼ばれています。ドライバーの運転支援システムを包括的に指す言葉です。人の「認知」「判断」「操作」のいずれかをサポートし、障害物への警告音や車間距離に応じた速度制御などを行います。
似た用語にAD(AUTO DRIVE ≒ 自動運転)があります。ADASは人の意思を優先し、運転サポートを目的としますが、ADは人の関与なしで目的地まで到着することを目的とします。ADASとAD(自動運転)の違いは、人の関与があるかないかです。
テスラの強み
テスラには、オートパイロット(自動運転)とエンハンストオートパイロット(強化型自動運転)、FSD(完全自動運転)の3種類の自動運転技術があります。
オートパイロットは、同一車線内での自動運転支援機能です。ドライバーの監視と操作を必要とする自動運転レベル2に該当します。
エンハンストオートパイロットは、車線変更や駐車などの一般的な運転操作も備えた進化版です。こちらもレベル2相当で、ドライバーの操作を必要とします。
一方、完全自動運転といわれるFSDの進化が速く、2025年8月にマスク氏が「新モデル訓練中、来月リリース」と発表。動画ベースの性能向上で、都市部・高速道路の複雑シナリオに対応しています。中国の極限テスト(突然の車線変更や障害物)でTesla Model 3/Xがトップに立ちました(BYD/Huawei/Xiaomiなど中国勢が失敗)。
また、安全性データではWaymo(1.16事故/100万マイル)より優性です(0.15事故/100万マイル)。
BYDの強み
2025年2月に「God’s Eye」システムを発表し、全モデルに無料ADASを展開。LIDARで物体認識を強化し、DeepSeek AIでドライバー支援を向上させました。低価格が強みとなり、大量生産で市場シェアを獲得(2025年上半期、テスラを上回る)しています。中国政府支援でデータ収集が加速中です。
競合他社の状況
中国勢(XPeng/NIO/Li Auto)もLIDAR/NVIDIAチップを使い追従しています。グローバルではWaymo(Google)がLevel 4で先行していますが、車両数(2026年2,000台 vs テスラ35,000台)とコストでテスラに及びません。欧米レガシー(GM/Ford/Mercedes)はマップ限定のLevel 2に留まっています。
X(旧Twitter)上の議論では、テスラのFSDが「BYDより数年先」との声が多く、中国テスト結果が共有されています。一方、BYDの無料ADASが「テスラの価格優位を崩す」との指摘も。
自動運転EVの 未来:ロードマップと展望

テスラの未来
2025年末までに無監督FSD(Level 4相当)を目指し、Cybercabロボットタクシーでライドシェア市場を革新(運転席/ペダルなし、低コスト設計)の予定です。
2026年までに35,000台のフリートを展開予定。Dojo AI6チップでリアルタイム決定を強化し、Optimus(人型ロボット)とのシナジーも期待できます。
マスク氏の理想タイムラインは「2025年末にinsane self-driving」。課題は規制(カリフォルニア州のドライバー義務)と中国進出ですが、データ量で他社を圧倒しています。
BYDの未来
2027年に固体電池を実用化(12分充電で1,500km走行)。ADASをLevel 3へ進化させ、データセンター拡大でAI学習を加速させました。中国市場ではテスラを追い抜く可能性大となっています。グローバル展開(欧州・アフリカ)で低価格自動運転EVを普及させていますが、フルオートノミーではテスラ/Waymoに後れを取っています。
【まとめ】自動運転EV市場の全体の競争展望
テスラはプレミアム・自動運転主導で利益率を高め(AI訓練が収益源にシフト)、BYDは量産・低価格で市場を席巻しています。中国のEVシェア(世界70%超)が加速する一方、米中貿易摩擦(関税)が障壁になっているとの見方です。
2030年までに自動運転市場は兆単位の価値を生むが、テスラが80%シェアを狙う一方、BYDの無料ADASが普及を民主化。安全性・規制が鍵となり、両社のアプローチ(ソフトウェア vs ハードウェア)が融合する可能性もあります。
この競争はEVの未来を定義づけます。テスラのイノベーションが優位を保つか、BYDのスケールが逆転するか市場から目が離せません。
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