石破茂総理大臣の仰っていた七面倒臭い日本語についての解説コラムです。そもそも七面倒臭いことが日本なのであって、七面倒臭いからこそ他国の追随を許さない高い技術で世界の経済界をリードし、高貴な精神性で世界の範となってきたのではなかったでしょうか? よく考えて喋りたいものです。
日本の「床座文化」は、座り方とその身体動作に深い影響を与えてきました。特に着物を着用する際には、座り姿における礼儀作法と身体構造の融合が顕著になります。着物の着崩れを防ぎ、美しい姿勢を保つことは、座り方における重要な原則です。
椅子に座る際も、帯がつぶれないように椅子の座面の真ん中よりやや前に腰掛ける感覚で座り、両膝をつけ、指先を揃えるかやや内股にすることが推奨され、また常に背筋を伸ばし、椅子の背もたれに寄りかからないように注意することも重要です。
これらの座り方の規範は、単なる外見的な美しさだけでなく、着物の構造を維持し、身体の安定性を保つという実用的な目的も果たしています。このことは、日本の文化的な規範、伝統的な衣服、そして特定の身体力学と無関係ではありません。
日本の座り方の規則は恣意的なものではなく、礼儀作法と着物の完全性の両方を維持するように設計されており、衣服、姿勢、社会的な相互作用がシームレスに統合された全体的な文化システムを強調しています。
【大和言葉詳細解説】座り姿の身体表現の一覧表

以下に、各語句の姿勢と意味・歴史由来についての簡潔な一覧表を記載します。
語句 | 姿勢 | 意味・歴史由来 |
正座 (Seiza) | 膝を揃えて座り、足の甲を床につける姿勢。 | 日本伝統の正式な座り方。礼儀正しさや敬意を表すために用いられる。歴史的には武士階級や茶道で重視された。 |
跪坐(きざ)(Kiza) | 膝を立てて座り、踵の上に腰を乗せる姿勢。 | 正座に近いが、より臨戦的な姿勢。武士が刀を抜く際などに用いられた。 |
立膝 (Tatehiza) | 片膝を立て、もう一方の膝を床につける姿勢。 | 動きやすさと安定性を兼ね備えた姿勢。武士が戦闘や移動中に用いた。 |
そんきょ (Sonkyo) | 膝を軽く曲げ、腰を落として構える姿勢。 | 相撲や武道で用いられる。相手に対する警戒心や準備の姿勢を示す。 |
あんざ (Anza) | 膝を曲げて座り、足を組む姿勢。 | リラックスした座り方。日常的な場面で用いられる。 |
横座り (Yokozawari) | 片方の足を伸ばし、もう一方の足を曲げて座る姿勢。 | 女性が着物を着る際に用いられる。礼儀正しさと美しさを兼ね備えた姿勢。 |
うたひざ (Utahiza) | 片膝を立て、もう一方の膝を床につけた姿勢で歌を歌う。 | 古くからの歌謡や伝統芸能で用いられる。情緒的な表現を重視する姿勢。 |
わりひざ (Warihiza) | 膝を開いて座り、足を横に広げる姿勢。 | 男性が用いることが多い。リラックスした座り方で、日常的な場面で見られる。 |
いざる (Izaru) | 膝をついて前に進む姿勢。 | 畳や床の上で移動する際に用いられる。礼儀正しさを保ちながらの移動方法。 |
にじる (Nijiru) | 膝をついて後ろに下がる姿勢。 | 畳や床の上で後退する際に用いられる。礼儀正しさを保ちながらの移動方法。 |
にじりよる (Nijiriyoru) | 膝をついて相手に近づく姿勢。 | 茶道で用いられる。相手に対する敬意や慎重さを示す移動方法。 |
【大和言葉詳細解説】座り姿の身体表現

正座 (Seiza)
「正座」とは、両膝を揃えて折り、足首からかかとの上にお尻を乗せる座り方です。現代では日本の伝統的な座り方として広く認識されていますが、古来の日本人が自然に行っていた座り方ではありませんでした。むしろ、かつては胡坐(あぐら)や立膝(たてひざ)が一般的でした。
正座が形式的な座り方として普及したのは江戸時代以降とされ、茶道の作法の影響を受け、さらに武士が将軍に拝謁する際の正式な座り方として採用されたことが大きな要因です。この座り方は、将軍への恭順の意を示し、足が痺れることで急な反抗行動を抑制する意味合いも含まれていました。
その後、畳の普及とともに庶民の間にも広まり、「正座」という概念自体は明治時代以降に確立されたと考えられています 24。正座は立ち上がるのに時間がかかるという特徴も持ちます 28。この身体表現は、正座が実用的な、あるいは儀式的な姿勢から、江戸時代に礼儀作法と社会的な階層の象徴として形式化された伝統の典型例です。
足を痺れさせて攻撃を防ぐという安全保障上の目的も持っていたことは、一見単純な身体動作の中に埋め込まれた権力関係を明らかにし、身体の姿勢がいかに社会統制を強制し、服従を示す手段となりうるかを強調しています。
跪坐(きざ)(Kiza)
「跪坐(きざ)」とは、正座の状態からかかとを上げ、つま先と両膝を床につける座り方です。この座り方は、正座に比べて足が痺れにくく、より素早く立ち上がって行動に移れるという実用的な利点があります。
そのため、神道や弓道、伝統空手、古流剣術などにおける「控え」の姿勢として用いられ、即応性と準備態勢を示す座法として重要視されます。歴史的には、平安時代から室町時代にかけて、目上の者に対する下級武士や従者の座法としても見られました。
「蹲踞(そんきょ)」としばしば混同されることがありますが、跪坐は座った状態からの即応性を重視する点で異なります。形式性と戦略的な機動性を独自に融合したものです。
儀式的な、あるいは武道的な文脈においてさえ、敬意を表する姿勢を保ちつつ、即座の行動への準備を維持することを可能にし、準備態勢という文化的な価値を強調しています。これは、身体を不動にする正座とは対照的な特徴です。
立膝 (Tatehiza)
「立膝」とは、片膝を立てて座る姿勢を指します。これは古来、胡坐(あぐら)と並んで日本で広く行われた座法であり、戦国時代の武将や女性にも見られました。居合座りとも呼ばれ、素早い動きや自由な体勢を可能にする実用的な側面を持ちます。
現代においても、能楽や居合術など、一部の伝統芸能や武道においてその姿を見ることができます。正座が形式化される以前の、より非公式でありながらも実用的な座り方として、歴史的な規範を反映しています。
立膝は、日本の座り姿における持続的な実用性と歴史的な流動性を示しています。社会階層や歴史的時代を超えたその広範な使用、そして武道や舞台芸術における継続的な存在は、機動性と快適さのための機能的な利点を強調し、正座が唯一の伝統的な姿勢であるという単一的な認識に異議を唱えています。
そんきょ (Sonkyo)
「蹲踞(そんきょ)」とは、つま先立ちで深く腰を落とし、膝を開いて上体を正す姿勢です。相撲や剣道などの武道において、取り組み前や稽古の終始の礼として行われ、相手への最大限の敬意を示す作法とされています。神道においても儀式作法の一つとして存在します。
その起源は古事記や万葉集にも記述が見られ、元禄時代前後には武道に取り入れられたとされますが、詳しい起源は不明です。現代剣道で「蹲踞」と呼ばれる礼法は、元来神前の礼であったものが相撲の様式の中で変化したものであり、正式には「跪居(ききょ)」と呼称すべきであるという議論もあります。また、神道の蹲踞は敬意を示すために上体を少し前に傾けるのに対し、武道の蹲踞は上体をまっすぐにする点で異なります。韓国剣道(コムド)では、日本的なものとみなされ、蹲踞を廃して立礼が行われている点も、文化的な差異を示しています。
蹲踞は、その意味と形式が文化的な領域(武道、宗教)間で進化し、多様化した動的な儀式的姿勢です。用語論争や異文化間の差異(例:韓国剣道)は、深く根付いた伝統でさえ、時間の経過とともに変化する価値観や実用的な考慮事項を反映して、解釈、適応、再定義の対象となることを浮き彫りにしています。
あんざ (Anza)
「あんざ」とは、両足を体の前でゆるく交差させる、胡坐(あぐら)の一種です。これは形式ばらない最もリラックスした座り方であり、長時間座る際に快適さを重視する目的で用いられます。
瞑想の基本姿勢の一つとしても知られ、「楽坐(らくざ)」やヨガの「スカ・アーサナ」と訳されることもあり、心身の安寧を促す座り方とされます。正座や跪坐のような形式的で制約の多い座り方とは異なり、安座は快適さと気軽さを優先します。
あんざは、非公式な環境における快適さとリラックスの重要性に対する文化的な認識を強調する座り方です。形式的な姿勢の多い日本の社交界において、安座は対照的な存在であり、特に瞑想のような長時間の非儀式的な活動のために、快適さを追求した座り方も日本の身体動作に含まれることを示しています。
横座り (Yokozawari)
「横座り」とは、正座の形から片側にずれた座り方で、「女座り」とも称されます。主に女性に見られる座法です。
この座り方は、見た目の柔らかさや、膝への負担軽減といった側面がある一方で、身体の歪みを引き起こす可能性も指摘されています。特に、股関節に悪影響を与え、骨盤が四角くなる恐れがあり、女性の場合は子宮に影響を与えるなど、健康上好ましくない座り方だもいわれています。
こうしたジェンダーに特化した座り方が、美的な側面と健康への潜在的な影響の両方を持ち、場合によっては長期的な身体的結果につながる可能性もあります。
うたひざ (Utahiza)
「うたひざ」とは、歌人が短冊を持ち、歌を案じる際に片膝を立てて座る姿勢を指します。これは胡坐と片膝立てを組み合わせた形であり、中世の絵巻にも多く描かれていることから、古くから行われた座法の一つであったことがわかります。
この座り方は、形式ばらない自由な体勢であり、創造的な活動や思索に適しているとされます。歌人だけでなく、学問や思索にふける際に用いられることもあったと考えられます。
創造的な思索のための姿勢、その歴史的な普及、そして知的・芸術的な追求との関連性を示し、身体の動きが単なる物理的な行為ではなく、精神的な活動や創造性の促進にも貢献しうるという文化的な理解を反映しています。
わりひざ (Warihiza)
「わりひざ」とは、両膝をやや開いて正座する、あるいは正座の状態から両脛を外側に開いてお尻を地面につける座り方を指します。
主に女性や体の柔らかい子供に見られる座り方であり、「女の子座り」「ぺたん座り」「あひる座り」「鳶座り」などとも呼ばれます。しかし、この座り方は股関節や骨盤に悪影響を及ぼし、特に女性の場合、子宮に影響を与える可能性が指摘されています。
歴史的には、男性の礼儀正しい座り方とされていた時期もあったようですがフェードアウトしていきました。一見非公式に見える姿勢が持つ潜在的な健康への影響、文化的な受容との関係性を再認識させられる座り方です。
いざる (Izaru)
「いざる」とは、膝や尻を地面につけたまま、少しずつ前に進む移動方法を指します。これは座ったままの姿勢で、音を立てずに慎重に移動する際に用いられます。
この言葉は「躄る」や「膝行る」と書かれ、古くから存在する身体表現です。方言では「イジャリデル」などとも呼ばれます。この身体表現は、座った状態での制御された動き、慎重さ、そして限られた空間で礼儀作法や隠密性を維持する上でのその役割を示しています。これは、身体の動きが単に空間を移動するだけでなく、その移動自体が特定の意味や目的を持つという、日本文化における身体表現の緻密さを表しています。
にじる (Nijiru)
「にじる」とは、座ったまま、膝を使って少しずつ進むことを指します。また、物を押しつけてすり動かす意味もあります。この動作は、茶室の客の出入り口である「躙り口(にじりぐち)」の語源にもなっており、その狭い入口を慎重に進む動作を指します。
躙り口は、茶室の空間を広く見せる効果や、客が身を低くして入ることで謙譲の意を示すという目的がありました。この身体表現は、謙虚な入室、限られた空間での制御された動き、そして茶道におけるその象徴的な意味を示しており、謙遜と空間との意図的な物理的相互作用という文化的な価値を強調しています。
にじりよる (Nijiriyoru)
「にじりよる」とは、座ったまま、膝や尻を使い少しずつ相手に近づく動作を指します。これは「にじる」の動作を伴い、相手への敬意や親密さを示すために用いられます。
特に、茶室のような狭い空間で、相手に配慮しながら間合いを詰める際に多用されがちです。
この身体表現は、動きを通じた繊細な対人コミュニケーションを示し、敬意や謙遜を示すこと、そして日本の社会的な相互作用において個人的な空間を注意深く管理することの重要性を強調しています。
【まとめ】和の身のこなしが語る日本文化

座り姿においては、「正座」が武家社会における恭順の象徴として確立された歴史的経緯や「跪坐」の即応性、「あんざ」の寛ぎ、「横座り」や「わりひざ」が持つ身体への影響、そして「いざる」や「にじる」が示す空間との繊細な相互作用と謙譲の精神など、多岐にわたる側面が浮かび上がりました。
これらの身体表現は、調和、敬意、規律、状況認識といった日本文化の根幹をなす価値観を反映しています。また、着物という衣服が身体動作に与える影響や、美意識と機能性が結びついている点も、日本の身体文化の大きな特徴です。例えば、「摺り足」が洗練された芸術形式と病理的な症状の両方を指しうるように、同じ動作でもその意図と熟練度によって全く異なる意味を持つことは、身体表現における「意図性」と「習熟」の重要性を強調しています。さらに、「正座」が伝統として構築され、権力関係の表象として機能した歴史は、身体の姿勢がいかに社会的な統制と服従を示す手段となりうるかを示しています。